パスコード変えて
外を見ると今日も暑そうな青い空が広がっている。
私は今日も何もする事なく家でダラダラと過ごして1日を終えてしまった。
暇があるならバイトを、と思う人もいるだろう。私もそう思う。ただ昨今の世界情勢的にシフトを削られてしまっている始末である。
なのでバイトもなく、誰に会うわけでもないニートのような生活をしている私は
外をぼうっと見上げて暑そうだなと簡単な感想を抱くだけで終わる毎日を過ごしているのである。
空の明るさが疎ましい。
照らされてる方の身にもなってほしいものだ。
長い梅雨と急な暑さに気持ちは追いつかず今までこの夏をどう乗り切っていたのか分からなくなった。
1年前はゴールデンウィークからずっと暑かったように思う。秋になっても残暑も続いていた。
暑いのは嫌いだけれど、夏が長くて嬉しかった。
暑さが強まり出した5月のある日
突然「話したいことがある。別れ話ではないけれど、」と彼に言われ話し合いをしたことがある。
どうやら数日前、私が目を離している間に私のスマートフォンを盗み見してしまったらしい。やましいものは何も無いが、彼には伝えていないSNS、所謂『裏アカ』を見られてしまったのだ。
そこには日々感じた様々な愚痴や思いの丈を綴っていた。これが私の本性かであるように。
私は恥ずかしくなった。その本性を彼にはうまく伝えられていなかったのだ。
自ら伝える前に勝手に見られたのだ。
ゾッとし、心臓はバクバクとなった。
しかし、これを見ても尚別れたいという意志がない彼の態度に安堵した。
受け入れられた気になったのだ。
そして彼は「勝手に見てごめん、もう二度としないから。」そう反省の意を述べたのだ。
『二度としない。』
勝手に他人のプライベートを覗き見たことへの罪悪感からの謝罪と決意を
誠心誠意受け取り私は彼の行動を許した。
夏と変わらぬ暑さが残る10月
彼は二度としないという約束を破った。
あまりにも早い裏切りである。
今度は泣きそうな顔になりながら
あからさまに何かしてしまったと言う顔つきで佇んでいる彼を見て
また見たんだな、とすぐに悟った。
そうじゃなければいいのにという期待を抱きながら彼が言葉を発するのを待っていると
彼の口から出たのはやはり謝罪の言葉だった。
今回は隅から隅まで見てしまったのかもしれない。もしかしたら私の知らない私の事までこの小さな端末から読み取ってしまったのかもしれない。
今度は謝られても気が済まなかった。怒りはしなかった。しかし、二度としないという言葉を信じ裏切られた気持ちをどうすればいいのかわからなかった。
これを機に別れるのだろうと思った。
もうおしまいなのだろうと。
しかし彼は彼に直接見せない私を見ても尚、嫌いになれないと泣いた。
私はこの人のことを裏切ることはできないと思った。私が泣かせてはいけない相手、そう思った。
私が伝えられないのが悪かった。私が悪い。全て許した。
もう全部忘れよう、今までの事を話し合おう。そうして日が落ち始めた公園でコンビニで買ったお酒を飲んで話した。
嫌なことも隠しいたこともどうしたいかも
普段自分の気持ちを伝えるのが苦手な私はお酒の力で全て話した。
彼は納得できないこともお酒と一緒に流し込んでくれたようだった。
こうして少し経つと脚にたくさん蚊に刺された事を笑いながら話していた。
その日は
夜ご飯を買いに行き、一緒に食べ、一緒に眠りについた。
この人だったら私の本当を見せても良いのかもしれない。嫌わないでこうやってそばにいてくれるのかもしれない。
そう思って眠りについた。
しかし私の気持ちは日を追うごとに憂鬱になって行った。
彼は悪い事をして懺悔し許してもらうことで気持ちが楽になったようだった。
しかし私はその懺悔を聞き入れ知らなかった事まで知ってしまい、嫌な気持ちだけ残ってしまったのだ。その思いは消えることなく、それでもまた彼を傷付けまいと伝えることもできず、
モヤモヤとした気持ちだけ私の心に残ってしまった。
「パスコード変えて、また見ちゃうかもしれないから。」
彼はあの夜そう言った。
『二度と見ない。』は何だったのだろうか
きっとこの時から2人の歯車は狂い出していたのだろう。
歯車が合わない音を聞こえないフリをしてきたのだ。外れても見て見ぬ振りをしたのだ。
意を決して見た時にはもう元には戻らない姿になっていた。私のせいだ。
暑い夏が来る前にパスコードを変えておけば未来は変わっていたかもしれない。
そう思いながら、今日もう彼に見られることもないのでパスコードを元に戻した。
四桁の簡単な数字とともに時も気持ちも戻ればいいのに。
こんな風に思うのはとてつもなく現代っ子という感じで虚しい。
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